増幅回路(ぞうふくかいろ)とは、増幅機能を持った回路である。信号のエネルギーを増幅する目的のほか、増幅作用を利用する発振回路、演算回路などの構成要素でもある。
エネルギー保存の法則を破るようなものではなく、エネルギーは電源など他から供給され、信号を増幅するのがその作用である。変圧器でも昇圧は可能だが、信号エネルギーは増えないのでふつう増幅としない。
電気的(電子的)なものの他に、磁気増幅器や光増幅器などもある。以下電子回路について説明する。
電子回路では、その構成と特性により、もっぱら「電圧増幅」と「電力増幅」(電圧は同じで電流を増幅するのだが、電力を得ることが目的のためそのように呼ばれる)に大別される。
スイッチング回路は最も単純な増幅回路であり、ONとOFFの信号のみを増幅する事に特化している。電子工学以前の電磁機械動作の時代からある増幅回路(→リレー)でもあり、リレーにより信号を中継することを「アンプする」という語がある。ただ、普通増幅回路といえばアナログな(殊にリニア的な)ものを指す。
バイポーラトランジスタでは入力電流の小さな変化が、電界効果トランジスタや真空管では入力電圧の小さな変化が、出力電流の大きな変化としてあらわれるという特性がある。電流を取り出せば電力増幅であるし、抵抗で分圧するか抵抗の端子間の電圧降下の電圧を取り出せば電圧増幅となる。
インピーダンスの「ロー出しハイ受け」(ライン (音響機器)を参照)の原則や、一般にいきなり大電力で目的の発振や変調をするのは難しいことから、特に大きな出力電力が必要な場合など、電圧増幅(インピーダンスは入力出力とも高い)を何段か重ねた後、最終段に出力インピーダンスの低い電力増幅段(電圧利得1倍(0db)で、電流増幅度が高い)を設けて出力を取り出す、ということをする。最終段をファイナルとか電力段、電力段を駆動する段をドライバ段などと言ったりもする。
増幅回路の諸元としては、まず増幅率が挙げられる。増幅度と呼ばれることもある。いずれも(出力)÷(入力)の値として定義される。増幅率には次のようなものがある。
増幅回路であれば電力増幅率は1より大きくなるが、電圧、電流については1より小さくなることがある。これは、入力インピーダンスと出力インピーダンスが異なるためである。また、増幅率は大きければよいと言うものではなく、必要な増幅率は設計により一意に決まるのが普通である。増幅率は真数で表記するほか、対数(デシベル[dB])で表記することも多い。この場合は利得と呼ばれる。デシベル表記であれば、増幅回路を何段も重ねて接続した場合のトータルの利得が各段の利得の総和として表せることから扱いに便利である(足し算なので設計者が頭の中で簡単に計算できる)。また、真数では桁数が多くなる場合でもデシベルだと殆どの場合二桁以下で表せる。例えばトータルの電力増幅率が100000倍の場合、ゼロの数を 間違えないように数えなければならないが、デシベルだと50dBとなりわかりやすい。ただし、デシベルで平均を取ることは出来ないので、その場合は一旦真数に戻してから平均を取る必要がある。
その他、増幅回路の諸元として、入力インピーダンス、出力インピーダンス、周波数特性(f特)、出力効率(電源から供給される電力に対する出力電力の比)、歪率、NF、P1dB、IP3(en:Third-order intercept point)がある。
[編集] 接地方式
真空管、トランジスタ、FETを増幅回路に用いる場合、3本の電極を入力、出力、共通線(接地)にどのように振り分けるかによって、増幅回路の特性が大きく異なる。トランジスタでは、接地する電極を基準としてエミッタ接地回路(Common emitter)、コレクタ接地回路(Common collector)、ベース接地回路(Common base)の3種類がある(真空管はエミッタ・コレクタ・ベースをそれぞれカソード・プレート・グリッド、FETはソース・ドレイン・ゲートに読み替える)。それぞれの回路は次表のような特徴がある。
接地方式 | 電圧増幅率 | 電流増幅率 | 周波数特性 | 入力インピーダンス | 出力インピーダンス |
---|---|---|---|---|---|
エミッタ接地 | 高 | -- | 悪 | -- | 高 |
コレクタ接地 | 1倍 | 高 | 良 | -- | 低 |
ベース接地 | 中 | -- | 良 | -- | 高 |
[編集] バイアス方式
0V0Aから正負対称にリニアに動作してくれる素子があればうれしいわけだが、真空管もトランジスタもそのようには動作しない。そこで入力を常に一定の電圧で偏らせたり一定の出力電流に調整したりすることをバイアスをかけるという。
バイポーラトランジスタの場合入力が0Vではオフの状態で、バイアス電圧をかけ、シリコンでは約0.6Vを越えると(品種によって少し違い、温度による特性もある(約2mV/度))電流が流れ始める。この特性をノーマリーオフという。真空管の場合入力が0Vでも出力電流は流れるという特性がありノーマリーオンという。真空管は通常そこから電流が流れなくなる側にバイアスをかけて使用し、電流がほぼ完全に流れなくなるバイアス電圧をピンチオフ電圧という。真空管ではそのようにバイアスを大きくかけることを「バイアスが深い」と表現する。
バイポーラトランジスタと真空管でバイアスの大きさと意味が逆になるので、それぞれについての記述を読み替える時は注意が必要である。電界効果トランジスタでは種類により真空管と同様のタイプとバイポーラトランジスタと同様のタイプがあり、また個体差による電圧のばらつきも大きい。
完全にオフの領域のバイアスについては入力にかける電圧で、出力電流が少し以上流れる領域のバイアスについてはバイアスによる出力の電流で考えることが多い(トランジスタの特性など出力の電流に依るものが多い)。
バイアスのかけかたには以下のような方式がある。エミッタ接地で説明する。
[編集] 固定バイアス
固定バイアスは、常に一定のバイアス電圧か、ほぼ一定のバイアス電流を入力にかける方法である。電圧をかけるには例に示した左の回路図のようになるが、このようにするのは0.1Vより細かい精度で電源電圧の調整が必要な上、入力信号の基準電圧を底上げする必要もありふつうあまり実用的でない(トランス結合であればそうでもないが)。また熱特性の影響をもろに受ける。
実用的には右のようにするが、入力インピーダンスがバイアス抵抗の値にまで下がってしまう、コンデンサによりハイパスフィルタが構成されるという副作用がある。バイアス抵抗の値は次のようにして決める。
まず、無信号時のコレクタ電流をたとえば1mAと決める。次に、トランジスタの電流増幅率hFEがたとえば100であれば、そこからベース電流は0.01mA(10μA)となる。ベースの電位は約0.6Vになるので、電源電圧をvとすると、オームの法則により、バイアス抵抗の値は (v - 0.6) / 0.00001[Ω]となる。
実際に作る際は入手可能な抵抗の値から選ぶ必要があり、設計では負荷抵抗(回路図右の出力-電源間の抵抗)の値の決定も必要であるが割愛する。正確な設計には、結構バラつきの大きい個々のトランジスタのhFEに依存する点が問題であり、またベース-エミッタ間電圧とコレクタ電流の特性が2mV/度で温度により変動することによるベース電流の変化が出力に増幅されて現れるという問題もあり、回路が単純であるという点以外は利点がない。
[編集] 自己バイアス
自己バイアス
自己バイアスは出力からフィードバックをかける形のバイアス方式である。反転増幅回路なので負帰還である。設計は以下のようにする。
エミッタ接地回路では、電源電圧を負荷抵抗RLとトランジスタのコレクタ-エミッタ間電圧(Vce)で分圧して出力電圧を取り出すわけだが、無信号時のRLによる電圧降下が電源電圧の1/2から2/3程度になるようにするのが相場である[1]。詳細は教科書等で確認のこと。ここでは2/3と決めたとする。すると無信号時のコレクタの電位は電源電圧をv[V]とするとv/3[V]となり、ベースとの電位差はv/3 - 0.6[V]となる。コレクタ電流を1mAとするとベース電流は0.001 / hFE[A]であるので、オームの法則により、バイアス抵抗は (v/3 - 0.6) / (0.001 / hFE)、整理して (v/3 - 0.6) * hFE / 0.001[Ω]となる。
フィードバックは以下のようにして働く。コレクタ電流が増えたとすると、コレクタの電位は低下する。するとバイアス抵抗にかかる電圧が低下し、ベース電流が減り、コレクタ電流が減る。
[編集] 電流帰還バイアス
電流帰還バイアス
電流帰還バイアスは、エミッタ接地の場合はエミッタに抵抗が入る(エミッタ抵抗、emitter degeneration resistorなどとも言う)ことが特徴である。負帰還の特性があり、温度安定性が高い、増幅率が抵抗の比で決定される、hFEのバラつきにかかわらず設計できる、などの利点がある。
負帰還のメカニズムは以下の通りである。
- コレクタ電流が増える
- エミッタ電流が増える
- エミッタ抵抗の電圧が上がる
- エミッタの電位が上がる
- (ベース電位が一定であれば)ベース-エミッタ間電圧が下がる
- ベース電流が減る
- コレクタ電流が減る
電圧増幅率は、ほぼ RL/Re になる。
実際の設計では制約条件によりさまざまだが、以下に抵抗値の決定の一例を示す。
- シリコンバイポーラトランジスタの Vbeは1℃あたり約2mV変動する。アイドル時のコレクタ電流を1mAとし、温度変動50℃でコレクタ電流の変動を10%以内に収めるには、Reは1kΩとなる。
- 増幅率を10倍とすると、RLは10kΩとなる。
- コレクタ電流が1mV、Reが1kΩなので、エミッタ電圧は1.0Vとなる。Vbeを0.6Vとして、ベース電圧が1.6Vになるよう、R1とR2で電源電圧を分圧する。安定した動作のためには、ベース電流(=コレクタ電流÷hFE)の数倍以上の電流がR1とR2を流れるようにする。
「アンプ (音響機器)#級」も参照
ここでは増幅回路の、特に素子の動作を指しての級について述べる。アンプ装置全体としての級、特にオーディオ用のそれについてはアンプ (音響機器)#級を参照のこと。
[編集] バイアス量
真空管やトランジスタなどの増幅素子は、入力信号がある一定の直流値(電圧or電流)範囲にあるときにのみリニアな増幅結果が得られるという特性をもち、その範囲を外れて使用すると出力信号は歪む。そこで、入力信号に対して一定の直流値(電圧、電流)(これをバイアス値という)を加えて素子の適切な動作範囲に収まるようにする必要がある。 アナログ増幅回路はバイアスの量によりA級、B級、C級に分類される。デジタルアンプのことをD級、その他近年E級~H級までデジタル技術を応用したアンプが呼ばれているが、どれも方式を示す便宜的なもので、特にグレードを示したりするようなものではない。
また、A級~C級の区別について、時にトランジスタの生の特性であるIc-Vbe曲線(右の上の図が一例である)を使った説明を見かけるが、それは正しくない。一見するとグラフの右のほうがリニアなように見えるが、実際のところかなり非線形である。下の図は、同じトランジスタを使い、電流帰還バイアス回路で、エミッタ抵抗を10kΩ・コレクタ抵抗を100kΩとした時の、ベース電圧とコレクタ電圧の関係を示したもので(反転増幅回路になっている)、0.5V付近を境に、ほぼ折れ曲がるような特性になっているのがわかる。これを、約0.5Vで0から一定の傾きに切り替わる完全な折れ線状の特性であると近似した上で、その特性上のどのあたりで動作するものであるかを分類したものが、アナログ増幅回路の級であり、厳密にすっぱり� �別できるものではない。
12を選ぶには多くの方法
[編集] A級
A級増幅回路とは、増幅素子の入力と出力の関係が直線的(比例関係)になるよう、入力信号の全瞬時値にわたり出力が直線的に対応するバイアス電圧・電流を与え、入力と相似の出力が得られる方式である。B級やC級と比べて最も歪みの少ない出力が得られるが、一定のバイアス電流が常時流れているので消費電力が大きく、特に無信号時では顕著である。電力増幅回路を構成した場合、供給電力に対する効率は最大50%である。
[編集] B級
B級増幅回路とは、交流の入力信号のうち片側の極性のみが増幅されるように増幅素子にバイアスを与えた方式である。バイポーラトランジスタを増幅に用いる場合、ベース-エミッタ間のオン電圧である約0.6Vをバイアスとして与える。入力電圧が負の場合には、トランジスタに入力される電圧はオン電圧より低くなるため、コレクタ電流はゼロとなり、出力されない。入力電圧が正の場合にのみ、入力電圧の振幅に比例した出力電圧が得られる。
音声信号増幅の場合には、2個の増幅素子を正負対称に接続した回路(プッシュプル回路)により、入力信号と同じ波形が出力されるようにする。SSB送信機の出力段などでは半周期増幅のままフィルタで目的出力を選択している。
出力の効率が最大78%とA級増幅回路に比べ高効率で、小信号時の電流が大変少ない(定損失が少ない)ため、(特に小信号をも扱うオーディオアンプなどの)出力段に用いられる。
また、オーディオアンプなどでは、プッシュプル回路で上下のトランジスタが切り替わるあたりでの歪みを減らすため、バイアスを多めにかけたりすることがありそれをAB級などと称することがある。また、さらにバイアスを掛けて、プッシュとプルの両方を常にA級動作させることさえあり、純A級などと称する。
[編集] C級
C級増幅回路とは、バイアスを遮断値よりも素子がOffになる側にかけて、入力信号の電圧が十分に高い場合にのみ出力電圧が得られる、スイッチング動作に似通ったものである。真空管の場合はバイアスを深く、トランジスタの場合はバイアスをゼロ乃至わずかしか掛けない。
入力信号と出力信号の波形は全く違ったものになり、出力信号には高調波の成分が多く含まれる。一方、無駄に流れる電流がないため消費電力の効率は最も良い。
C級増幅回路は、大電力の狭帯域高周波増幅回路によく用いられる。出力にフィルタ回路を設け、増幅回路によって発生する不要な周波数成分を取り除く。
応用例として、周波数逓倍器(w:Frequency multiplier)がある。これは入力の周波数の奇数次倍の高調波を目的の出力として得ようというもので、フィルタ回路を設けて高調波を取り出す。
[編集] その他の級
[編集] D級
「アンプ (音響機器)#デジタルアンプ」も参照
D級は、増幅素子の動作点(バイアス)による区分ではなく、デジタルアンプによる方式を指す。
デジタルアンプは、パルス幅変調やパルス密度変調を応用し、スイッチング回路で電力増幅を行うことで高効率増幅(最大で90%以上)を実現する。
A-C級という分類が増幅素子の直線動作範囲に対する動作中心位置(バイアス電圧、電流)の相違なのに対し、スイッチング動作の平均値を出力とするものであり、増幅の動作原理そのものが質的に異なる。
スイッチング回路は矩形波しか出力が出来ないが、入力電圧をパルス幅変調やパルス密度変調して電力増幅した場合エネルギー効率が高い。このスイッチング回路から出力されるのは矩形波であるが、ローパスフィルタを通す事で原信号を取り出す事が出来る。これによって、任意の信号を高いエネルギー効率で増幅する事が出来る。
「1ビットアンプ」などともされる。携帯オーディオ機器では、その高い効率によって動作時間を延ばす事が出来る。
[編集] E級
E級増幅回路は、共振回路にタイミングを合わせてスイッチング回路で駆動することにより電力増幅を行うことで、高効率増幅を実現するので、D級増幅回路同様に増幅素子の動作点(バイアス)は関係ない。 前出D級増幅器と異なりデューティー比は一定でPWMは不可能で共振する関係上、狭帯域増幅器でなおかつ出力振幅は一定であるため、単体では振幅変調に対応することができないが、D級増幅回路が増幅素子を最低2個要するのに比べ、最低限増幅素子を1個で構成できるためデッドタイムの生成などが不要で回路はシンプルである。 なお、携帯電話や無線LANなどで変調方式が複雑化するにつれて、振幅変調へのニーズが高まったことから、増幅回路へ信号の包絡線に比例した電圧又は電流を増幅回路の電源として供給することで振幅変調に対応したEER(Envelope Elimination and Restoration)回路もある。
[編集] 代表的な構成方式
[編集] シングル
1個の増幅素子で信号を増幅する回路で、もっとも基本的な増幅回路である。専らプッシュプルに対して使われる。正負対称の増幅を行うためにはA級増幅回路とする必要がある。
[編集] プッシュプル
(en:Push–pull output)2個の増幅素子を正負対称に接続して、それぞれ一方の極性の信号のみを増幅する方式がプッシュプルである。基本的にはバイアスはB級とするがA級動作させる場合もあり詳細はアンプ (音響機器)#級を参照。
回路図上で各極のトランジスタが縦に重ねて記されるところからトーテムポールとも呼ばれる。デジタル回路のCMOSも一種のプッシュプルである。
ここで示す回路図は、原理の説明のための簡略化したものである。熱暴走対策などがなされていないものもあるので、実際の回路を組む場合は注意を要する。
[編集] DEPP
Double-Ended Push-Pull - 出力端が2個であることからこの名がある。図に示したような基本的な構成では、通常B級動作とする。入力トランスの2次側の中点タップを素子の動作電圧とし(シリコントランジスタなら約0.6V)トランスの両端から正相側と逆相側を取り出す。トランジスタはエミッタを共通にしたエミッタ接地になっており、それぞれのコレクタが出力になっている。入力信号が正側の場合と負側の場合で、それぞれ片側のトランジスタと回路が働き、出力トランスの1次側の中点タップから、トランスのどちらかの側に向けて電流が流れる。
SEPP (コンプリメンタリ)
[編集] SEPP
Single-Ended Push-Pull - 出力端が1個であることからこの名がある。
[編集] コンプリメンタリ
信号の正側では、ベースから電流を吸い込むNPNトランジスタで出力から電流を吐き出す向きに駆動し、信号の負側では、ベースから電流を吐き出すPNPトランジスタで出力から電流を吸い込む向きに駆動する。エミッタが共通になっており、どちらのトランジスタもエミッタ・フォロワになっている。トランジスタにより可能になった回路で、入出力のトランスやコンデンサをなくすことも工夫すれば可能になった。
図示した回路ではダイオードでトランジスタの動作電圧のぶん電圧をシフトしているが、数ワット以上の出力の場合は熱暴走対策として出力トランジスタと熱結合したトランジスタによる定電圧回路などにしたほうがよい。
エミッタ・フォロワではなくエミッタ接地型のプッシュプルもあり、電源電圧ぎりぎりまで出力をスイングさせたい場合などで使われる。
SEPP (非コンプリメンタリ)
[編集] 非コンプリメンタリ
同じ極性の素子でSEPPを構成しようとするとこのようになる。入力トランスは必ずしも必要ではないが、負電源の電圧を基準電圧とした逆相信号を作る必要があり、それが簡単なためトランスを使って説明している。独立した電源で固定バイアスをかけているが、これも簡略化のためである。
前述のコンプリメンタリ素子を使う方法があるためトランジスタではあまり見ないが、コンプリメンタリのない真空管ではこれの派生ないしバリエーションのような回路がいくつか考案されまた使われており、SRPP(en:Shunt regulated push-pull amplifier)などがある(SEPPをこれらの一種とする見方もある)。
クロス・シャント プッシュプルの一例。初出の文献より
[編集] その他
その他のプッシュプルの方式に、クロス・シャント プッシュプル[2](似た回路が、ほぼ同時期に海外でも複数、おそらく独立して考案されており、トランスレスの「w:Circlotron」(商標)などがある)、McIntoshのUnity Coupled circuitなどがある。
[編集] 差動増幅回路
差動増幅回路。
詳細は「差動増幅回路」を参照
2個の増幅素子を左右対称に接続して2個の入力端子を設け、その差の電圧に応じた出力を得る回路が差動増幅回路である。出力段はプッシュプル回路にすることが多い。次章で述べる負帰還を自由に設定できるなど、回路の自由度が高いので、オペアンプがこの方式を採っている。
詳細は「フィードバック」を参照
実際の増幅回路では、回路の特性を改善する為に負帰還(NFB, Negative FeedBack)を掛けて用いる事が多い。負帰還とは、出力信号の一部を入力に戻し、入力信号と逆位相で合成する事によって、出力の振幅を抑えて増幅回路の特性を改善する事である。負帰還によって回路の増幅度は低下するが、広い周波数帯域にわたって均一な増幅度が得られる。増幅回路の増幅率が十分に大きければ、負帰還を行ったときの増幅率は帰還率によって正確に決まる。出力信号の全てを入力に負帰還させると、増幅率は1となる。
いま仮に、アンプ単体の増幅度が周波数により1000倍~100倍で、負帰還率を1/10とすると、全体の増幅度は10(=1/10-1)で一定となり、歪みは1/100~1/10(負帰還量)に抑えられるということだが、単体増幅度が帰還増幅度(この場合10)に近づく領域では歪み抑制効果がなくなり、位相回転で発振する条件もできる。
出力信号の一部を入力に戻し、入力信号と同位相で合成するものを正帰還(PFB, Positive FeedBack)と呼ぶ。出力信号が帰還されて入力信号を増大させ、それが増幅されて帰還され……を繰り返すので、正帰還はその量により発振を引き起こす(発振回路)。
[編集] 用途による分類
増幅回路を扱う周波数で分類すると、次のように分類できる。
- 高周波増幅器(RFアンプ)
- 低周波増幅器(AFアンプ)
- 選択増幅器(特定の帯域のみを選択して増幅するようにしたもの)
- 中間周波数増幅器(IFアンプ)(スーパーヘテロダイン方式などで。周波数帯としては通常高周波帯で、ラジオの受信周波数にかかわらず一定の周波数だけを増幅するもの)
直流までも増幅するアンプをDCアンプという。直流アンプの意味でもあり、入力トランスやコンデンサを通さず入力を直接受け取っている(Direct Coupled)という意味(en:Direct coupled amplifier)でもある。オペアンプはDCアンプである。
電圧、電流、電力のどれを重点的に増幅するかによって、電圧増幅器、電流増幅器などと呼ぶこともある。
それぞれに対してA,B,C級など別の分類もできるので、分類名を重ねてA級低周波電力増幅器などという。
増幅回路を扱う信号の大きさでの分類も場合により必要になる。主に小信号を入力対象にした増幅回路と大信号をそれにしたものである。微小信号の増幅については、主にSN比が問題になるため、増幅器自体の発生する雑音の少ない素子や回路を選択する。大振幅の信号を扱う増幅器は主に電力増幅器であり、発熱や消費電力を低減するために増幅器の効率が重視される。また、高調波歪、相互変調歪などの歪特性はいずれの場合も重要である。
[編集] 多段増幅器とレベル配分
例えばラジオや通信型受信機は1μW以下の入力信号を数百mWオーダーまで増幅してスピーカに出力する必要があるが、増幅器1段で100万倍(60dB)もの利得を得ることはできない(送信機についても同様)。現実の増幅素子1個で得られる増幅率には限度があるからである。高周波で安定に動作するのは10数dB程度である。したがって、何段もの増幅器を直列に接続する必要がある。
その際、単に同一の増幅器を直列に接続すると、受信機の場合は小信号がノイズに埋もれたり、大信号で歪が発生する不具合が発生する。このため、初段と後段で増幅器の設計を変える。一般的に、初段では小信号用の低雑音アンプが使われ、後段では大信号用の低歪アンプが使われる。送信機の場合は、消費電流が初段と後段で大きく異なるため、初段では小信号用のアンプが使われ、後段では大信号用のアンプが使われる。そして、送受信とも各増幅器における信号レベルが適正になるように、レベル配分と呼ばれる設計を行う。
レベル配分は、要求仕様、消費電力、増幅器の能力、安定度、価格を勘案して設計者が決める。
[編集] 結合方式
多段(複数の増幅器から成る増幅器を設計する際等に着目した増幅器に対して段ということがある)に渡り、増幅器を連結した一つの増幅器を設計する際に段間結合の方式として幾つかがある。コンデンサー結合、トランス結合等があるがそれぞれに特徴がある。コンデンサー結合ではその容量の設定値により、周波数範囲が決まってくる。トランス結合では理論上は周波数範囲は狭められることはないが、諸事情で狭められる。直結では電位を揃えることも必要になる。これらのことは上記「多段増幅器とレベル配分」とは別の課題として個々の増幅器の目的に応じた最適な設計が検討される。
[編集] 付加回路
増幅の作用には直接寄与しないが、性能や動作の安定性の向上を目的として、増幅回路に付加して用いられる回路(付加回路)がいくつかある。
[編集] デカップリング回路
複数の増幅素子から構成される回路では、出力付近の電気信号が入力に帰還することで発振する可能性がある。帰還回路を設けていなくても、電源回路の内部抵抗(インピーダンス)が高いと、増幅回路の出力の変化に伴う消費電流の変化が電圧降下として現れ、別の増幅素子に影響を与えて発振することがある。
これを防ぐための回路がデカップリング回路である。電源回路内に低抵抗やチョークコイルを接続し、その前後を大容量のコンデンサを通して接地する(バイパスコンデンサ)。これにより、消費電流の変化に伴う電圧降下が別の増幅素子に伝わることが少なくなる。
また、ICの多くは、その電源端子(足)のプラス・マイナス間(プラス・共通GND間ではないことに注意)に最短距離でコンデンサを接続し、動作の安定を図る。これもデカップリング回路の一種である。このためのコンデンサには、高周波数特性の良いセラミックコンデンサが主に用いられる。
[編集] AGC回路
詳細は「自動利得制御」を参照
AGC回路(Automatic Gain Control)とは、入力の電気信号の振幅が変動する場合においても一定の出力が得られるよう、自動的に増幅回路の増幅率(利得)を調整する回路である。主な例は、受信機の中間周波増幅回路に用いられるものである。
入力電圧の増加に対して瞬間的に利得を下げる機能が働くと、出力波形はそのピークが抑えられた波形となり、歪が生ずる。これもAGC回路の一種であるが、実用上の回路では、入力信号の値に対して長時間の平均値を取り、それに合わせた時間遅れ(大きな時定数)を与えて利得を調整することが多い。
適切に調整すると、ダイナミックレンジが圧縮されて狭くなるので音量が大きく、音質が太くなったように感じる。これを利用して主としてカーラジオでラジオ放送を聞きやすくするため、電車の車内放送で周囲の騒音レベルに合わせて音量を調節するため、会議や会話を録音用するための携帯用テープレコーダーやICレコーダーの録音時の利得を調整するため等に用いられる。音楽分野では楽器演奏において音量レベルを揃えたり楽曲全体の音色作りなどに利用されている。これらの機能をまとめたものをコンプレッサー(リミッター)と呼ぶ。利点の一方で、広がり感や奥行きに欠けることがあるので適さない音源もある。音源というより、使用目的でコンプレッサー(リミッター)の活用をするというのが上手な録音では適切な運� �であり、適さない音源というものがあるわけではなく目的により使い分けるようにする。 他に、テレビ画面の明るさを周囲の明るさに合わせて変化させるなどの用途に用いられている。
[編集] 参照・脚注
- ^ 『はじめてトランジスター回路を設計する本』2002年版 p. 31
- ^ 『ラジオ技術』第6巻第12号(1952年11月号、通巻65号)pp. 68-75(目次には pp. 49- とあるが、目次が正しくない)「クロス・シャントPP回路を使った6A3BPPと6AR6PPの試作」島田聰(聡)
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